レイモンド・チャンドラー「プレイバック」の感想(ネタばれなし)
レイモンド・チャンドラー著 村上春樹 訳「プレイバック」読みました。
*ネタバレはありません
チャンドラーのマーロウものの完成原稿としては遺作になるのだとか。
インパクトはないけれど、そこそこマーロウしてて、ミステリ的にもそんなに悪くはないです。つまらなくはない。けれど小粒であっさりしていて、なんだか穏やか。老境にさしかかると、やっぱりシンプルになっていくんでしょうね。出版されたときにはチャンドラーは70歳を超えていたとか。
そしてロング・グッドバイの後に出たということも考えると、なんだかロング・グッドバイ自体がマーロウからの盛大な別れのような、そしてプレイバックは往年を振りかえってしょうがなくアンコールに応えているような、そんな印象を覚えました。
内容としても300ページ程度で、ロング・グッドバイの500ページ越えから比べるとずいぶん簡素になり、しかもプレイバックの根幹となる事件は120ページくらいからになります。これといった余韻はないけれど、ラストだけは前作(ロング~)から続きになっていて、チャンドラーのメンタルが弱っていたのが影響しているような終わり方に感じました。
自分の中では佳作、というのがしっくりきます。ミステリとしてしっかりしていた「高い窓」と比べ、同じくミステリではあるものの、後半の物語の原動力が弱いプレイバックは「高い窓」からぎっちりしたものを抜き出し、ライトにしたような読み応えです。
丁々発止のやり合いも、ほとんどありません。
プレイバックで初めてマーロウものを読む人は、インパクトがなくて普通に感じてしまうかも。でもちゃんとエッセンスはあるんですけどね。
「リトル・シスター」なんて、ミステリとしては破たんしていても、キャラや物語は魅力的で、マーロウものの楽しさがそれなりの濃度で残されています。そこへいくとプレイバックは良くも悪くも、中途半端な作品です。マーロウらしさはマイルド、しかしミステリとして特筆すべき何かがあるわけでもなく。ミュージシャンが手癖のパターンで作ったシングル曲みたいな。サザンとか、ラルクのファンを長くやっていれば、なんとなく伝わるかもしれないレベルの言い方でアレなんですけれども。
そんなところも含めての、マニア向けのふんわりした良さがある小説です。
個人的にゲームデザインが優れていると思うボードゲーム3選
1年くらいボードゲームに接してきた中で、なんて優れたデザインなんだろう、と感心するものがありました。デザインは英語そのまま、設計という意味で書いています。見た目の話じゃありません。念のため。
もちろん、ビジュアル面もボードゲームの魅力のひとつで、これがいまいちだと買うときにかなりためらいます。正直に言えば、バトルライン。ネットでの高評価を知らなければ、しょぼいわりに高いなあ、でスルーしてしまってました。(実際、実物を見かけても3度くらい、手にとってやめてました)
閑話休題。
まずひとつめ。日本アマゾンでも売り上げトップ5以内に食い込んでいる名作、ドブル。
Spot Itという別名でも発売されている、円形カードを使った絵かるた。
2枚(からそれ以上)カードを出して、相手より先に同じ絵柄を見つけるという超簡単なルール。年齢も国籍も人数も選ばないゲームデザインです。
どのカードを抜き出しても、必ず1つだけ同じ絵柄があります。数学的な計算に基づいて作られた、美しさにしびれますね。最近、ドブル・キッズという簡易バージョンも、日本語版が発売されました。どこでも遊べるように、防水加工バージョンが欲しいです。
2つめ。ナンジャモンジャ。以前は、なまえをよんで、というタイトルで流通していたとか。
同じく、かるた風ゲーム。
リンクはペアセット。みどり、しろ、の2バージョンがあり、内箱はなくカード束が2つ入っているそうなので、単体で欲しい人はバラ売りパッケージがいいかもしれません。うちにはバラ箱で、それぞれあります。2つのカードを合わせて、複雑にすれば大人数にも対応できます。
基本ルールは山札から引いたカードが初めて出たものなら名前を付け、同じものを引いたら相手より先に、さっきつけた名前をいう。先に名前を呼んだ人がカードをとります。最後に枚数の多い人が勝ち。
ドブルと同じく、年齢や国、人数を選ばずに遊べます。絵もかわいい。何よりアイデアのすばらしさにしびれますね。
そして3つめ。
2016年に新しい日本語版が流通した、キャントストップ。
すごろく風ゲーム。
ラブレターと迷ったのですが、カードゲームとして考えると前述の2つの方に軍配が上がるため、キャントストップを選出しました。
サイコロを4つふって、毎回2~12の中から3つまで数字を選び、そのマスを進める。自分のターンでは、何度サイコロを振ってもいいし、いつやめてもいい。ただし、はじめにマスを進めた3つの数字以外の目しか出なかったら、自分のターンで進めた駒はすべてなかったことにされてしまいます。先にどれか3つ駒をゴールさせたら勝ち。……とまあ、これは言葉よりやってみた方がわかりやすいかもしれません。
サイコロという運でしかないものが、実は出目の確率に偏りがあり、それをどうコントロールするか、というゲームだと気づいてからが本番。オンラインでインド人と対戦したところ、あっさり負けちゃいました。でもこのゲームも、背後に潜む数学的な美しさが素晴らしいです。
ただ、賽の目を4個見て、毎回どの数字の組み合わせになるかチェックするのは、実物だと手間に感じてしまうのが惜しいところ。デザインのすごさは揺るがないですけどね。
そんなわけで、個人的にデザインに美しさを感じるボードゲーム3作品でした。
今回も本の話
時節のご挨拶は省略。
ボードゲームも相変わらず楽しんでますが、本の話を。
まず1冊目。森博嗣「正直に語る100の講義」
森せんせのファンなのですけれども、最近はエッセイばっかり読んでます。小説の方はあんまり。単発のを読んだりもしましたが、引退後はむしろ間口が広い読みやすさになってるんじゃないでしょうか。
100の講義シリーズ5冊目で、さすがにネタ切れ感というか、シャープさこそ弱まっているものの、奥様とのスプレー缶のエピソードとかとても良いです。というか、奥様ネタこそ面白い。気軽に読めて、ちょっぴり考えさせられる。そんな一冊。
パオロ・マッツァリーノ「つっこみ力」
10年前の本で、小芝居のパートは冗長にも感じられますけれど、飽きさせないという意味では楽しんで読めました。さすがに時間の流れを感じさせられるネタがちらほら。それでも面白いし、なるほどなあと思わせられます。
住宅ローンが自殺の一因であるという説は、感心しました。車も家も消費財、というのは釈然としないものを感じます。政府はどんどん買い替えさせたい方針にしてますけどね。それもこれも、お金をあんまり稼げないのが問題。お金の力じゃ解決できないのはアニメやドラマの世界くらいですよ(言い過ぎ)。
本の福袋を買ったら入ってたので読みました。野生動物に対する捉え方が自然を相手にしている人という感じで、またよいです。いきなり3巻だけ読みましたが、どの巻から読んでも問題なし。デビュー前夜の話は若いからこそできる力技で、著者ならでは。そのあたり、かなり人柄が出ていて面白かったです。
最近読んだ本の話
*小説のネタばれはないので、ご安心ください。
松岡圭祐「万能鑑定士Qの事件簿1&2 力士シールの謎」読みました。
表紙イラストと人が死なない、面白くて知恵のつくミステリというキャッチコピーからずっと気になっていたので、読めてよかったです。最初の2冊だけは上下巻になっていて、話が続いているので注意が必要。といっても上中下よりは全然、平気ですけどね。
キャッチコピーの通り、面白かったし、唸らされるトリックと展開でした。
文章も読みやすく、細かく章分けされているのでストレスフリーでページをめくれます。読むハードルが低いので、すぐやめて、すぐ続きを読める。本として、すぐれたデザインです。章立てが細かいのは、新書に多いタイプのスタイルですね。グッとくるシーンも複数ありました。
ただし、それがネックになっているところもあって、1巻で唐突に挿入される「未来」という章では、時間軸が未来へと移ります。これはプロローグに入れるべき話だと感じました。他にもあちこち、物語の構成が片手落ちになっている部分が見受けられ、残念です。ラストについても、エピローグが欲しい(でも書かれていない)終わり方。逆に言うと、プロでそれなりにヒットした作品でも、完璧というわけではないんだなーと、物語を考える趣味がある自分としては、ほっとした面もあります。でも率直に書いてしまえば、3巻以降を積極的に読む気にはなりませんでした。
パオロ・マッツァリーノ『「昔はよかった」病』も読みました。
こちらも面白くて、新書だと物足りなかったです。もっと読んでいたい。でも長すぎるとダレちゃう。そんな微妙なニュアンスです。データの合間にときどき入るブラックユーモアが、いいアクセントになってます。
昔は百貨店が先鋭的だったのが意外でした。日本で初めて商店街や消費者相談センターを置いた話は、ショッピングモール的な存在がまだまだ珍しかったからでしょうね。完成された現在、業態としては守りに入ってますし。
個人的には、製品なんかは新しければ新しいほどいい、と考えていて、昔はよかったと思うことはあまりなく、むしろ今から生まれ直したいくらいです。おぎゃあ。
ネイチャー&サイエンス 「世界のお墓」
とはいえ、どちらかといえば、こちらの方が身近な存在。いわゆる写真集。
美しい写真に見とれ、葬送という儀式の無駄さにしびれる(褒めてます)。
野生の世界では死者は餌になるので、葬儀なんて無駄なことを野生動物も植物もしません。知性ある生物だけが、こんな文化的な行為をする。そういう点でも、美しいです。
中でも鳥葬に使ったとされる、中東の砂丘にある「沈黙の塔」の葬場に胸を打たれました。何度見てもグッとくる、さびしくもカラッとした写真です。人類は死というものをどう受け止めてきたのか。その一端がのぞけます。
ボードゲーム「禁断の島(Forbidden Island)」をプレイ
最近ようやく「パンデミック:新たなる試練」が再販されましたが、それまでの間は遊びたくても遊べなかったので「禁断の島」を遊んでいました。同じ作者で似たようなシステムのため、何かと比べられることが多い作品です。
缶々の箱で、おしゃれなのがうれしいポイント。
マニアにとっては収納に困るサイズらしいですが、そこまでボードゲームを持っているわけじゃないので、今のところ関係ナッシング。
海外ボドゲファンサイトBGGでのレートは6.9となかなか。
Forbidden Island | Board Game | BoardGameGeek
タイル配置のレイアウトのバリエーションが出ているので、英語に抵抗感の少ない方は画像を探してみることを超おすすめします。説明書にある初期配置の形でしかタイルを置かないなんて、もったいなさすぎますので。
新パンデミックと比べてどうなのか書いちゃうと、
ずばりどっちも買い、というのが感想です。システムは似ていても、ゲームの雰囲気やプレイ感は結構違います。禁断の島は冒険がテーマで、「人が侵入すると沈む島から宝を持ち帰るか、島と共に沈むか」という、ルパン三世なゲームだと思って遊んでいます。パンデミックは世界を救うか滅ぼすか、といった感じで、時間もコンポーネントも重め。箱も大きいです。
禁断の島は30分もあれば終わりますし、ボードゲームとしてのプレイ感は軽いです。英語版しかないのがネックといえばそうなんですが、ネットに和訳が公開されていてファンも多いので、ルールを検索すれば問題ありません。主にカードの小箱ボドゲを遊んでいる人にとっては、価格帯といい、コンポーネントといい、ちょうどいい重さだと思います。
禁断の島は、島のマップをタイル配置によっていくらでも変えられるので、リプレイ性が高いのもいいところ。逆に、役割カードというものが6枚あるのですけれど、カードが裏返しでも表が何かわかってしまうのが微妙です。うちはサイコロで役割を決めてます。
今回は漢字の「門」のレイアウトでプレイ。
スタート時点でタイル配置が偏っていたのもあり、伝説級でクリアできました。
水深マーカーに、「悪意なし(初心者)」「ノーマル」「エリート」「レジェンダリー」と4つのレベルが記されてます。
残りタイルは6枚ながら、余裕をもって遊べました。
絶賛するほど面白い、とは言えませんが、安定して楽しいです。
誰とでも無難に遊べる作品ですね。
数年前にアメリカで大ヒットしたのも頷けます。
リンクを張るのにチェックしたら、いつの間にか買ったときより400円くらい値下がりしてました。ボードゲームは、値崩れ~プレミアの波が激しい……。
2人プレイ専用ボドゲ「路面電車(トラムバーン)」が楽しい
ボードゲームというか、実質カードゲームの「路面電車」が面白く、気に入って遊んでいます。お値段の割に内容物は少なくて、カードが142枚と、使い捨ての厚みのあるスコアシートが入っているだけ。なので、箱の中はスカスカしてます。
カードを入れる袋がついていないため、(デウスに入っていて余っていた)チャックのついた袋に保管しています。買った人は最初、袋がついてなくて困ることうけあい。
パッケージは日本オリジナルの、イラストレーターによる書き下ろし。
ただしゲームに使うカードはドイツのミュンヘンの、古い鉄道が舞台です。
写真をもとにしていて、結構おしゃれです。
手札を持っているところ。
海外のボドゲファンサイトBGGでのレーティングは7.1と、なかなかいい感じ。
Trambahn | Board Game | BoardGameGeek
スタートプレイヤーは1万2千マルク、後手は1万5千マルクを所持金に、手札6枚でスタート。カードの裏面はお金となっているのが、頭い~い! って思います。ゲームデザイナーはよく考えつきました。これがあるせいで、かなり悩ましいのです。
1. 4色ある乗客置き場に1~2枚プレイ(必須)
2. 列車カードの下に、同じ色の、数字の小さい順にカードをおく(2ターン目から)
3. 手札を裏返してお金にする
4. 列車を買う
5. 手札を6枚になるまで山札から引く
といった手順で遊びます。1.の乗客置き場に4枚カードがたまったら得点計算。
得点計算が10回発生したら、即、ゲーム終了です。
また列車カードに8枚カードが並ぶと、おまけの得点計算が発生。これは10回のカウントに入りません。
(追記:6回遊んだあと、これを読んで初めて気づいたんですが、臨時運行は8枚並べたプレイヤーにしか発生しないんですね。同色の列があれば双方に得点決算が起きると勘違いしてました)
この手順がうまくできていて、得点計算をしてからじゃないと列車の下にカードを置けないようになっています。でも列車の下に置いたカードが得点になる。むむむ……。
得点計算をメモするために、ペンが必須です。
うちはダイソーで売っている、領収書とかの事務用品の「日計表」を買ってきて、メモとして使ってます。ゲームに封入されているスコアシートは、なんだかもったいなくて未使用です。
このゲームの、唯一といっていい欠点がこれ。10回もの得点計算です。といっても、実際にやってみると大した手間じゃないので、気にならないはず。オープンのボードゲーム会には微妙かもしれません。その場合、携帯でメモすればいいことですけどね。
ゲームがちょびっと進んだところ。左上に青の乗客が4つ並んだので、列車の下に並んだ縦の青のカードで得点計算が発生。カード上部、真ん中の数字が得点。列車に2とか3とかあるのは、数字を2倍、3倍に乗算してね、という意味。向かいの相手は青の列がないためゼロ点です。
プレイ感は本当に、ライナー・クニツィア作のボドゲである「ロストシティ」の改良版といった感じで、個人的には路面電車の方が好き。ルールさえ知っていれば、言語依存はないので海外版でも遊べるでしょう。ロストシティのシンプルさがいい、という人もいると思うので、どちらが優れているとかの話ではないですよ。
ゲーム終了の図。
灰色のカードはジョーカーです。どこに使ってもいいけれど、数字がないため得点にはつながらないのがポイント。8枚並べて、追加の得点計算を発生させるために置いています。
これを書いている時点でトータル6回ほど遊びましたが、1勝5敗とまったく勝てません。箱にある通り、だいたい1ゲーム30分が目安です。負けまくっているにもかかわらず、面白さは変わらず。何度やっても楽しいです。
すごくいいゲームで、大当たりでした。
ボードゲーム「キャントストップ」のささやかな戦略
BGAに登録すると、最初にチュートリアルで遊ぶゲームが「キャントストップ」です。
BGAはリアルタイム、ターンベースともに可能な、ボドゲができるフランスのサイト。
日本語でも遊べるのも含め、すごいところです。
無料で遊べますが、気に入ったゲームは遊んでいるうちに欲しくなりますから、なかなかいい宣伝になってると思います。
で、キャントストップはサイコロを4つ転がして、2~12のうち、1回に3つまで数字を選んで駒を進める、というゲーム。毎ターン、好きな数字を選べます。2と12は3マス程度でゴールしますが、7は10マス近く進めないとゴールできません。そして3つ駒をゴールさせたら勝ち。
1度に3つまでの数字しか選べないため、2個同時に数字が選べる状況でも、あえて選ばない、という戦略が可能です。というか、これがものすごく重要ではないかと思っています。はじめのうちはなんとなく、2個同時に駒を動かせてお得に感じてしまうのですが、そうじゃありません。
なぜかというと、6~9の数字はとても目が出やすいです。連続でサイコロを転がしても、バーストしにくい。はじめに駒を進めた3つ以外の目しか出なかったら、自分のターンは終了してしまいます。そこで、「どの数字を選ぶか?」がポイントとなってきます。
個人的には2か3、11か12が出たらキープしつつ、6~9の数字の中から1つ駒を置いておくのがいいかなーと思います。6~9の数字は、ガンガンさいころを振ってOKで、2や12は出にくいので、出たらバーストしないうちに手番を終了させる。それ以外の数字は、状況を見つつ決めていくのがいいでしょう。
2016年11月時点でキャントストップは、日本アマゾンだとプレミア価格になってしまっていて、さらに元も5千円近くする高いゲームなので、なかなか手が出ません。言語依存がないため、海外から通販で買うのもありでしょう。
わたしとしては、ドラゴンハートが好きなので、ぜひ再販してほしいです。初心者でも慣れた人でも楽しめる、アートワークの美しいカード主体のゲームです。ただしパッケージのイラストは地味。あれで損してると思います。
こちらも日本アマゾンではプレミア価格になっちゃってるのが残念です。同じくBGAで遊べるものの、再販して、手ごろな価格なら実物が欲しいです。
異論はあると思いますが、カードのボードゲームは準備も片付けも楽なので、そういうのばかりつい買ってしまいます。ミープル(駒)やタイルを使うボドゲは、おしゃれで好きなんですが、手間に感じることも。おうちごはんと外食みたいな? これ、微妙なたとえかもしれません。ボドゲしてる感がより明確なのは、ミープルやタイルを使うゲームだと思います。